公取委 労務費の適切な転嫁へ価格交渉指針を公表

受注者と協議せず価格の据え置きは違反

公正取引委員会は11月29日、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表した。労務費の転嫁に関する事業者の発注者・受注者の双方の立場からの行動指針をまとめたもので、発注者が受注者と協議することなく長年価格を据え置くことなどは違反とした。受注者に対しても労務費の上昇傾向を示す根拠資料の提示を促し、発注者、受注者双方が価格交渉を記録し、保管することを求めた。

サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を

2023年の春季労使交渉の賃上げ率は約30年ぶりの高い伸びとなったものの、22年4月以降、現時点に至るまで、急激な物価上昇に対して賃金の上昇が追いついていない。この急激な物価上昇を乗り越え、持続的な構造的賃上げを実現するためには、特に我が国の雇用の7割を占める中小企業がその原資を確保できる取引環境を整備することが重要となる。その取引環境の整備の一環として、内閣官房および公取委の連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定。指針では、発注者・受注者が採るべき行動と求められる行動を12の行動指針として取りまとめ、それぞれに「労務費の適切な転嫁に向けた取組事例」、「留意すべき点」などを記載した。発注者に対しては価格転嫁の受け入れに関し本社(経営トップ)の関与を求めた。労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定することや、経営トップが同方針またはその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと、定期的に経営トップに報告することなどを要請した。受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設ける必要がある。とくに、長年の価格据え置きやスポット取引と称して長年同じ価格で更新されている取引は注意が必要だとしている。協議することなく長年価格を据え置くことや、スポット取引とはいえないにもかかわらずスポット取引であることを理由に協議することなく価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用または下請代金法上の「買いたたき」として問題となるおそれがあると注意喚起した。このほか発注者に対しては、「説明・資料を求める場合は公表資料とすること」、「サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと 」なども挙げ、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させることを求めた。

受注者は労務費上昇の根拠とする資料を提示

受注者にも、発注者との価格交渉において使用する労務費の上昇傾向を示す根拠資料としては、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いることとした。また、発注者から価格を提示されるのを待たずに受注者側からも希望する価格を発注者に提示することを推奨している。労務費上昇分の価格転嫁の交渉は、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングなどの機会を活用して行うことを勧めている。

カーゴニュース12月5日号

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