名古屋商工会議所 荷主「値上げ応じたが、転嫁に苦慮」
「2024年問題」で物流企業・荷主にアンケート
名古屋商工会議所(嶋尾正会頭)はこのほど、物流の「2024年問題」に関する荷主、物流企業へのアンケート調査結果を公表した。それによると、物流企業は価格転嫁や賃金上昇に対する課題認識が高く、高齢化や人手不足などの課題については今後対応すべき課題として認識していることが明らかになった。また、荷主企業では、運賃値上げに応じたことで増加した物流コストの転嫁に苦慮しているほか、課題への取り組み状況に大手と中小では差がある実態も浮き彫りになった。報告書では今後の解決策について、物流・荷主企業双方の課題を理解して交渉する場が必要だとしたほか、国の施策やガイドラインの認知について、中小荷主へのさらなる展開が必要と指摘している。
物流企業の課題意識は「価格転嫁」「賃金上昇」に集中
アンケート調査は、7月1日から23日までの期間にWebを活用して行われ、計402社から回答を得た。内訳は荷主企業316社(78.6%)、物流企業86社(21.4%)で、規模別では大企業96社、中小企業277社、小規模29社だった。設問作成や分析は日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が協力した。 まず、物流企業の課題認識では、「価格転嫁」と「賃金上昇」の課題認識度がともに95%と高く、ほとんどの企業が課題だと認識。また、「今後対応すべき課題だと感じている」の回答では「社員の高齢化」が74%、「人手不足」が67%、「採用難」が66%となっており、ヒト・人材を巡るテーマが今後の課題として強く認識されていることが明らかになった。このほか、「DX対応」も62%と高く、課題として認識されている。 課題解決のために行った取り組みでは、「業務効率化」「労働環境改善」「運賃値上げ」がともに56%と最多。一方、「契約書面化」「商慣行是正」「物流DX」はそれぞれ12%、10%、8%と低い率にとどまった。 物流企業からのコメントでは、「価格交渉をしても満額回答は得られない」(大手)、「車両やタイヤ、ガソリンなどの上昇分の転嫁が認められにくい、荷役も人件費の上昇分を100%カバーできていない」(大手)、「若手の離職者が増える中で計画通りに採用できず、時間外労働上限にかかる可能性がある」(大手)、「営業時間を短縮せざるを得ず、売上が減少している」(小規模)などの声が聞かれる。
荷主企業の対応策では大手、中小で格差
荷主企業の課題認識では、「物流コストの製・商品価格への転嫁」「委託している物流企業からの値上げ要請」に対する課題認識度がともに79%でもっとも高かった。これに対し、「荷待ち時間の発生」に対する認識は49%で半数を下回ったほか、ドライバーを除く「倉庫などの物流作業者の人材確保」についても43%と低く、荷主企業にあまり侵透していない現状が垣間見える。また、各課題への対応状況を大手、中小の規模別で比較したところ、「解決した・解決に向けて取り組み中」と回答した割合がいずれの項目でも大手荷主のほうが高かった。例えば、「物流コストの製・商品価格への転嫁」について「解決した・解決に向けて取り組み中」と回答した割合は、中小が21%だったのに対して大手は34%、「委託している物流企業からの値上げ要請」について「解決した・解決に向けて取り組み中」と答えた割合も、中小が29%に対し、大手は50%に達した。さらに、製造業と卸売業という業種別の状況では、卸売業の方が課題認識度が高い結果となった。「物流コストの製・商品価格への転嫁」への課題認識度ついては、卸売業が97%とほぼ全社が認識しているのに対し、製造業は86%にとどまった。また、卸売業では「リードタイムの変更」に強い課題認識を持っていることも明らかになった。報告書は「仕入れ先のリードタイムが延長しても、納品先への延長は認められず、卸売業が過剰在庫を抱える課題が発生」すると指摘している。課題解決のために行った取り組みでは、「取引価格の適正化」「取引条件の見直し」が高く、次いで「自社内での物流部門と他部門の情報連携」が続いた。荷主企業からのコメントでは、価格転嫁について「物流企業からの値上げ要請を受け入れたが、売価への転嫁は進んでいない」(中小・建築材料卸売業)、「既存取引では物流費用を上乗せする仕組みができていない」(中小・金属製品製造業)、といった声があがった。また、リードタイム変更については「立場上強く言えないが、得意先の意識変容が必要だと感じる」(中小・その他卸売業)という指摘が出ている。
行政施策の把握でも企業規模で格差浮き彫り
「2024年問題」に関連して行政が実施している施策の把握状況については、物流企業のほうが荷主企業よりも認識度が高い傾向が出た。「標準的運賃の見直し」の認識度は物流企業の64%に対して荷主企業は53.2%、「改善規準告示の見直し」では物流企業79.1%に対し、荷主企業の認識度は17.7%にとどまった。これを中小企業のみに絞ると、中小荷主企業の認識度はさらに低くなり、「標準的運賃の見直し」は48.4%、「改善規準告示の見直し」は14.3%まで低下した。 しかし、大企業のみに絞った場合、物流企業と荷主企業との認識度の差はほとんどなく、項目によっては荷主企業の方が認識度が高いものも見られた。
カーゴニュース 9月12日号